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Wednesday, May 26, 2004

甘いケーキと彼と(1)

恋は甘いケーキに似ている
最初は美味しくてたくさん食べてしまう

「えっ、カナも彼氏できたの?」
いくら大学の頃からの気の置けない友達といっても、かなり不躾な驚き方をされてしまった。サコがあまり大きな声を出すので、カナは慌てて車内を見回した。幸い乗客もまばらで、無関心だ。
「ちょっと、サコにだから話すんだから、まだ、他の人には言わないでよ」
カナは真っ赤になって言った。
「勿論よ、でも、マナミの次がカナだとは思わなかったな」
マナミの結婚式の次の日、同じ新幹線で帰る時のことだ。つい口を滑らせて、自分ももうすぐ結婚が決まりそうな相手がいると言ってしまった。
「私だってビックリしてるのよ、自分でまだ信じられない」

サコが驚くのも無理は無い。
大学の頃は我ながら本当に堅物だったと思う。
冴えない眼鏡をかけて本ばかり読み耽っていた。
高校は女子高だったし、大学に入っても、恋愛の対象になるような相手が周りに見当たらなかった。今思うと、興味が無かったから、目に入らなかっただけなのかもしれない。
一人娘で、将来は地元に帰って、職を見つけて、出来れば婿をとって欲しいというのが、言葉には出さなくても、両親の願いだとわかっていた。本当は大学も地元で通える所を希望されていたが、一度はどうしても都会に出てみたかった。
一人暮らしをするようになって、親が引いてくれた路線から外れて自由になれた気がしたのも確かだ。同じ学科で、仲良しのグループも出来て、長い休みには友達やひとりで旅行したりもした。

「ね、大学の頃、二人で約束した事まだ覚えてる?」
サコが懐かしそうに笑いながら聞いてきた。
「うん、よく話したよね。もし二人とも年をとっても、結婚とかしていなかったら、何処かに家を買って、一緒に暮らそうよって……」
「それから、もし離れて暮らしていても、どっちかが先に死んだら」
サコのコトバに、カナも一緒に次もコトバを重ねた。
「幽霊になっても会いに来るからね。絶対気づくように、何も無い部屋に花弁が落ちていたら、それが来た証拠だからね」
「ロマンチストだったね、私たち」
「絶対結婚なんかしないって思ってたもん。一人で生きていくんだって」
顔を見合わせて、くすくすと笑い合った。仲良しグループの中でも、一番サコと気が合い、趣味も似通っていた。二人とも大真面目に語り合ったのだ。

四年になって、卒論も提出し、皆が就職活動に走り回っているのを尻目に、カナは両親に最後の抵抗を試みた。
「ヨーロッパ旅行? それも三ヶ月も滞在するの?」
友達に話すと、一様に驚かれた。
そして、次に必ず言われた。
「カナらしいね、頑張り屋のカナならきっと行けるよ」
皆応援してくれた。
親もしぶしぶ半額の旅費を出そうと言ってくれたが、自分で達成したいからと断った。
卒業しても旅費を稼ぐためのバイトを続けた。天然酵母を使ったパン屋でフルタイムで働いが、段々、オーナー夫婦、特に奥さんとの折り合いが悪くなり、一生懸命働けば働く程、精神的な疲労もピークに達した。夜、ぐったりして、誰もいない部屋に戻る日々が続く。それでも、夢の為に頑張れた。

「私、カナがヨーロッパの各地から絵葉書をまめに出してくれたじゃない、あれ、凄く嬉しかった。郵便受け覗くのが毎日楽しみだったな」
「本当?」
「うん、でもね、今だから言うけど、一人で夢実現させちゃって、裏切り者~っ!とも思った」
「あ、酷い」
「あんなに堅く約束したのに、彼氏だってさっさと作っちゃうし、裏切り者だよね~」
「だから、それは」
サコはプッと吹き出した。
「もう、すぐ真面目にとっちゃわないでよ。妬けるなって事よ。それで彼ってどんな人? 何処で知りたったの?」
「なんだ……」
カナの困った顔が、パッと輝いた。
「私、ヨーロッパ旅行の後、地元で就職したじゃない」
地元に戻り、父親のコネで見つけてくれた図書館司書の仕事に就いた。生真面目すぎる程真面目なカナは最初は重宝がられたが、そこでも次第に人間関係の軋轢に悩むようになった。仕事が嫌になってきていた頃に、彼と出合ったのだ。
「本当、偶然なんだけど……」
語りだしたカナは、とろけそうな甘い表情を浮かべていた。

                                       ***次回に続く***

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