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Friday, June 04, 2004

愛していると言わないで(1)

「ねえ、私のことどう思ってるの?」
長い髪を掻きあげながら、酔ったフリをして聞いてみた。
それまで、楽しそうに笑っていた彼は一瞬悲しげな顔になり、私を見つめた。
「わからない?」
手を伸ばして、私の髪を救い上げた。
カウンターバーの店内の仄暗い照明が、彼の瞳に映って揺れている。
「聞いてみたかっただけよ」
私は誤魔化した。あまりにも綺麗な瞳だったから。私の中の小さな不安の種さえももみ消してしまうほどに。

「そう……ああ、何処まで話したっけ?」
彼はいつもの軽い口調に戻っていた。
「アナタのお兄さんの彼女の話」
「元カノだよ。兄貴の奴、最近フッちまったらしいんだ」
「だって、やっと出来たって喜んでいたんでしょ?」
田舎で警官をしているお兄さんの話は何度か聞いたことがあった。彼とは全く違うタイプらしい。
「別れた理由が料理がヘタだったからって、莫迦だよなぁ」
「じゃあ、料理下手でもいいの?」
「だって気に入らなかったら、自分で作ればいいじゃん」
「出来るの?」
ビックリして聞いてしまった。
「うん、俺って、器用貧乏だから、一通りなんでも出来ちゃうんだ」
クスッと笑って、片頬に当てた指がとても長く繊細なのにドキリとする。

まだ大学生、二十歳を少し過ぎただけなのに、彼はとても大人びていた。
彼の名前はシュン。
合コンで知り合って、気の合った者同士でつるむようになった。3対3のグループ交際の域をいまだに出ることは無い。
前から約束していたのに、今日はたまたま他の四人が都合が悪くて来れなくて、私と彼だけが会うことになった。
そのことを他の女の子に電話で告げたら、随分と羨ましがられた。みんな、口ではいろいろ言っているけど、本命は彼狙いなのだ。

私たちの席の近くを通り過ぎる女性は必ず彼に視線を奪われる。今もカップルで来ているのに、ある女性は彼を眺めてから、パートナーに目を移して、そっとため息を吐いた。
シュンはとてもシャレていて、洗練されている。
モデル雑誌からそのまま抜け出して来たみたいだ。

「どうしたの? 黙りこくっちゃって?」
「ううん、アナタはモテるんだろうなって関心してたの。私、今周りからかなり羨ましがられてるのが、わかるもの」
「そんな事は無いよ」
「ウソ」
「俺には一つだけルールがあるから」
「何?」
「教えてあげないよ」
するりと交わされた。
柔らかく笑っている彼をズルいと思う。
恋人でも無いのに、勝手に嫉妬している私がいた。

***(2)に続く***

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