« セピアな仔犬 | Main | 『2001年宇宙の旅』と『紅色恋人』 »

Friday, September 10, 2004

キミに似ているなんて(1)

***(2へ)***

カイは携帯を二つ持っている。
恋人には一つは仕事用だと言っていたが、本当はもちろん違う。
もう一つは浮気相手用だったりする。

『ミーナ』

ある時からカイは自分の彼女は統一して愛称はミーナと呼ぶことにした。そうすれば、寝言で間違えようが、うっかり別の相手の名前を呼んでしまおうがリスクが少なくなるからだ。危ない橋は避けて通るそれがカイのポリシーだった。
自分は上手に二人の女と付き合えるだけのマメさがあると確信したから、二股をかけることに踏み切った。上手に遊ぶ。バレなければ、恋人も浮気相手の彼女も傷つけない。
そう信じていた。
すべては順調に行っていた。
カイがそのことに気づくまでは……問題は何も無かったのだ。

「今日の映画、どうだった?」
カイはマイクを握ったフリをして、握った手をミーナ2の口元に近づけた。
「えっと、あの、楽しかったです」
「それじゃあ、普通のコメントすぎだよ。テレビ局のインタヴューだったら絶対採用されない」
「最高に感動しました!」
「ブーッ、不採用」
「酷ーいなぁ、もう」
プッと頬を膨らませると、そっぽを向いて歩き出した。
「冗談だよ、バカだなぁ」
カイが慌ててミーナ2の横に並ぶと、肩を抱き寄せた。
「だって感動したんだもん、私もあんな恋がしたいな……って」
少し俯いた顔に、肩先まで伸びた髪が掛かる。
「してるじゃないか、今」
更に強く肩を抱きながら、そっと囁いた。
「そうかな? そうね……」
機嫌を直したミーナ2がカイに腕を絡めてきた。この後はお決まりの食事の後はホテルというコースがほぼ決まっていた。
彼女は火曜日の恋人、それ以外は一週間の内、メールと変則的な約束で一、二回会う程度と決めていた。

「ただいま」
「お帰り」
ドアを開けると当たり前のように帰ってくる言葉。付き合い始めて4年、半同棲に近い関係は半年くらい前から続いている。
ミーナ1はソファに寝そべって、雑誌を読んでいた。
カイが身を屈めると、ミーナ1は顔を上げて軽く触れる程度のキスをした。
「ああ、疲れた……」
ゆっくりと首を回して、大儀そうに背広を脱ぐ。
「今日は来れるかどうかわからないって言ってたから、何も用意してないけど」
ミーナ1は背広を受け取って、ハンガーにかけながら言った。
「いいよ、カップラーメンくらいあるんだろ、それで」
「オッケー、普通のと焼きソバとどっちがいい?」
「じゃあ、焼きソバ……その前に風呂に入りたいんだけど」
「お湯入ってるよ」
「サンキュー」
ちっとも待っていなかった素振りで、本当は待っていてくれたのがわかる。それがわかっているから、何故か浮気してきた後、会いたくなることが多かった。

風呂から上がると、ミーナ1は時間をきっちり計ったようにカップ麺の焼きソバを湯切りして、ソースや具を混ぜた状態でカイに手渡した。ソファに座って、食べ始める。実のところお腹はあまり空いていないので、丁度いい量だ。
「ねえ、今度の休み」
「あの映画見に行くだろ? もうチケットも買ったよ」
「あ、わかってたんだ」
「だって、テレビの映画の予告を見ながら、うっとりしてたじゃないか。分かりやす過ぎ」
からかうと、プッと頬を膨らませた。
「意地悪なんだから……私が何度言っても無視してるから、気づいてないのかと思ってたのに」
「ごめんごめん」
笑いながら謝るカイの右側にミーナ1が座った。軽く彼に体を持たせかけてきた。

(アレ?)

ふと感じた違和感。いや、違和感とも違う奇妙な感覚。

「どうしたの?」
「イヤ、もしかしてシャンプー変えた?」
「あ、鋭い。行きつけの美容院で勧められて買っちゃった、どう?」
「……いい香りだよ」
カイは動揺を押し隠して、焼きソバを口に無理やり押し込んだ。

|

« セピアな仔犬 | Main | 『2001年宇宙の旅』と『紅色恋人』 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/33173/1402012

Listed below are links to weblogs that reference キミに似ているなんて(1):

« セピアな仔犬 | Main | 『2001年宇宙の旅』と『紅色恋人』 »